研究

 リハビリテーション医学・医療を発展させるためには、人々が生活していくため基本である「活動」、そして活動するために必要な「身体機能」、活動を妨げる「障害」について様々な視点から解析を行い、新たなる知見を見つけ出していく事が必要です。
 横浜市立大学医学部リハビリテーション科学教室では、リハビリテーション医学・医療の発展と人々の生活に貢献するために、「活動」「身体機能」「障害」に焦点を当てた研究に取り組んでいます。
1)障がい者の活動量把握の方法の開発(活動量計開発)
 本研究は、AMED(日本医療研究開発機構)の研究助成(研究開発課題名「中高年期障害者の健康増進システムの開発に関する研究」の分担研究)により、神奈川リハビリテーション病院、横浜国立大学未来情報通信医療社会基盤センターとともに実施しています。
 現在、多くの障がい者が、車いすを使用し社会復帰を果たしていますが、車いす生活者は、日常生活でのエネルギー消費量が少なく、生活習慣病のリスクが高いことが分かっています。このため、生活習慣病予防に向けた運動指導のために、車いす生活者の日常生活における活動量を知る事は重要です。そこで、車いす使用者の活動量を測定できる活動量計の開発を行っており、3つの加速度計(身体に2個、車いすに1個)を使用し、車いすの駆動回数、走行距離、消費エネルギーの測定を可能とする装置開発を進めています。

2)長期精神病院入院患者のロコモティブシンドロームに対する研究
 我が国における精神疾患患者の平均在院日数は300日を超え、長期入院患者の地域移行は大きな医療問題です。長期入院に伴う低活動と身体機能低下の実態を調査し、それらの精神疾患患者にも継続が可能である効果的な運動療法の開発、実践のため、平成29年度から厚生労働省科学研究費補助金を得て研究を行っています。精神疾患患者に対する運動療法は、身体機能だけではなく精神症状や病棟生活にも多面的な好影響を与える可能性が示唆されています。

3)スモン患者における運動機能に関する研究(画像解析を利用した体幹バランス能力の評価)
 キノホルムによる薬害であるスモン(SMON、subacute myelo-optico-neuropathyの略称、亜急性脊髄視神経症)は下肢の痙性麻痺、深部覚障害、異常知覚、視覚障害といった神経障害を生じる病態です。当時の厚生省と原告患者との和解が成立した際に、スモンについての研究を行うことが条件に挙げられており、当教室では長年にわたりスモン患者さんの検診事業に協力するとともに、患者さんのご協力をいただき身体機能や障害についての研究をしています。
 2017年度からは2次元動画解析の手法を用いた動作解析を行うことで深部覚障害などによるバランス障害、体幹失調について評価を行う研究をしています。前額部に計測用のマーカーを貼付し、座位足踏み動作をした際のマーカーの移動距離を動画解析ソフトで計測します。年齢調整した健常対照群と比較して歩行困難なスモン患者群ではマーカーの移動距離が延長する傾向が見られました。侵襲が少なくどこでも測定可能という点からも今後多用し応用可能な手法と考えています。

4)脊髄損傷後患者における疼痛発症にかかわる中枢神経系の機能的・構造的変化の探索
 脊髄損傷後神経障害性疼痛について、大阪大学脳神経外科・和歌山県立医科大学リハビリテーション科との共同研究を行っています。慢性期脊髄損傷患者さんを対象として各種臨床症候を整理し、fMRIを用いて機能的・構造的変化を調べることで客観的指標を探索します。また身体活動量との関係も調査しています。

5)肝胆膵患者の周術期におけるたんぱく質補給と運動療法の有効性について
 肝胆膵癌における手術療法は非常に侵襲が大きく、周術期の合併症や術後の体力低下により日常生活能力が低下するリスクがあります。術前の栄養状態や運動耐容能(体力)が術後の合併症頻度に影響することが報告されており、術前からのリハビリテーションが重要となります。
 本研究では術前に栄養補給と運動療法を合わせて行うことで、術後の合併症リスクや在院日数、退院時の運動耐容能などを改善することが可能か検討しています。

6)心大血管手術患者における身体活動量と身体機能について
 心大血管手術後患者において、心臓リハビリテーションによる身体活動量の維持・向上は退院後の心血管イベント(再入院率・心事故率など)の発症予防に有用であり、手術後早期から退院後も継続して実施される心臓リハビリテーションは重要であるとされています。
 当教室では、心大血管手術患者の身体活動量が低下する要因や身体機能との関連性、身体活動量を向上させるリハビリテーションプログラムの検討、中長期的な心血管イベントの発生についての追跡調査などにおいて研究を進めています。

7)心不全患者に対するNPPVを使用した運動療法の有効性について
 心不全患者にNPPV(非侵襲的陽圧換気療法)を実施することで、呼吸器・循環器・骨格筋などの機能が改善することが知られており、心不全治療の一つの手段として用いられています。先行研究では、健常成人に対してNPPVを使用した有酸素運動を実施することで心肺機能が改善することが報告されています(Moriki T, Nakamura T et al. PLoS One 2017)。
 そこで当教室では、心不全患者に対してNPPVを使用した運動療法の効果や安全性、また実施後の中長期的なトレーニング効果などにおいて研究を進めています。

8)運動時における血中二酸化炭素動態について
 運動時の血中二酸化炭素動態は骨格筋の代謝状態や肺胞換気などの様々な要因によって変化すると考えられています。本研究では、健常者を対象に、心肺運動負荷試験(CPX)にて運動負荷を行い、その際の動脈血二酸化炭素分圧を経皮的CO2モニターにより経時的に測定しています。結果を分析することで運動中の二酸化炭素の血中動態を解明し、かつ、今後の臨床への応用の可能性について検討しています。

9)ICU管理中の鎮静患者に対する電気刺激療法の効果について
 集中治療室では治療のために鎮静薬を用いて患者様の安静を保ちます。しかし、その間に筋委縮が生じ、生命の危機は脱したものの日常生活に復帰することが難しくなる症例を経験します。また、ICU患者において骨格筋の減少は死亡率や合併症頻度の上昇など不良な転記と関連していると報告されています。
 鎮静中には運動療法が困難ですが、代替手段として電気刺激療法を行い、骨格筋量の維持を行う研究を行っています。

10)TAVI実施患者における身体機能と運動療法の有効性について
 日本において80歳以上の超高齢者人口は増加しています。高齢化に伴い、動脈硬化性の大動脈弁狭窄症の発症リスクが増加し、大動脈狭窄症患者も増加傾向にあります。重症大動脈弁狭窄症に対する治療法として近年、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が開発され外科手術と同等の治療成績が報告されています。TAVI患者の特徴として高齢で、かつ術前の身体機能が低下しているフレイル状態であることが挙げられ、術前後のリハビリテーション治療が重要であります。TAVI患者に対する安全かつ、効果的な運動療法を検討し、その有効性についての研究を進めています。

11)FAI患者に対するリハビリテーション治療の有効性について
 近年、股関節の変形や機能障害をきたす大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI: Femoroacetabular Impingement)という病態が注目されています。このFAIに対して、リハビリテーションを含めた保存療法の有効性が提唱されています。
 当教室では、横浜市立大学整形外科と協力して、股関節だけでなく腰椎・骨盤・全身の姿勢などに着目したリハビリテーションプログラムの開発・検証、また関節鏡下手術後のリハビリテーションプログラムの効果などについて研究を進めています。

12)変形性股関節症、人工股関節全置換術後患者における三次元動作解析を用いた関節応力の検討(共同研究:横浜市立大学整形外科教室、龍谷大学工学部機械システム工学科)
 三次元動作解析装置を用いて、変形性股関節症患者の姿勢および動作の詳細な解析を行い、関節にかかる応力分析を行っています。そのデータを用いて、プログラム上で骨、関節、筋肉に生じる応力を計算できるプログラムの開発に協力しています。

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